«  アカハラダカ 対馬秋の渡り(2) | トップページ |  台風の置き土産 »

2008年9月30日 (火)

 マミジロタヒバリ他 対馬秋の渡り(3)

 対馬滞在の三日目、鳥見旅の予定通り、上島の佐護に向かうことにした。前日、Sさんに佐護行きの旨をお話したら、今の時期の対馬では見るべき鳥はアカハラダカが主で、他に珍し系はあまり見ないのだがと言われた。そう言われながらも、地元のバーダーに今どんな渡り鳥が佐護に入っているかを電話で問い合わせてくれた。気配りは心底有難いと思った。その結果、マミジロタヒバリが入っているが、その他珍し系は見ていないとのことだった。毎年秋の刈入れ頃になると、佐護の刈田ではマミジロタヒバリ、セジロタヒバリが見られると聞いていた。マミジロタヒバリが見られるならば、セジロタヒバリも見られるに違いない。共に未見の渡り鳥である。名に背負う佐護のことだから思いがけない珍し系に出逢えるかもしれない、と例によって皮算用が働いて予定通りの佐護行きを決めた。

 佐護は、空港近くの我が宿から約1時間半かけて北上する。4月にミゾゴイを見た美津島町を過ぎて、更に北上を続けることになった。国道であるが、島の山岳地帯を経ながらの道は意外に険しく急カーブも多い。
 午前8時過ぎに目標にしていた佐護小中学校に達し、佐護川の川辺に出た。そこからすぐ左に入ると椋梨という地域に入る。昔マダラチュウヒが飛来した処として知られているが、そこは後で寄ることにして佐護川を渡る大岩橋を過ぎたあたりの塩田という水田地帯を最初に訪れることにした。Sさんからは、その辺りで渡りのセキレイ類が見られる筈だと教えて頂いていた。

 佐護漁港に向かう一本道の両脇に続く稲田は、半分近くが刈入れが終わっていた。チョウゲンボウが電柱や電線に止まっていて、刈田に現れる昆虫を狙っている。3、4羽と見かけるので家族連れなのだろうか。ここでも例によってカラスのモビングを見る。しかし、このような光景が違和感なく感じる農村地帯だった。低い山々が水田地帯の周りを囲み、それは佐護川の両側に沿って佐護湾に向い、やがて山並みは明るく開けた湾内になだれるようにして落ちる。なんとなくであるが、鹿児島県川内市高江の自然に似ていると思った。河口に向かってゆったりと流れる川内川、その周囲の水田地帯、取り囲む山々、冬鳥であったがその種は豊富だった。その故だろうか、ここ佐護ならば珍し系の渡り鳥が来ても不思議ではないと感じた。

 大岩橋を渡ってすぐの右手の刈田の面を鳥が群れて移動していた。少々金属的な響きを感じる啼き声が微かに聞こえ、セキレイ類と思われた。車を道路脇にあるスペースに止めて、双眼鏡で確かめると、白い眉斑に青っぽい草色をした背羽と白い翼帯が見える。ツメナガセキレイだった。今時の対馬では、よく見られる渡りの鳥で、昨夕宿の近くの湯ったりランドという運動公園でも群れているのを見た。

ツメナガセキレイ
ツメナガセキレ

 北海道で見た繁殖期のツメナガセキレイは、眉斑は黄色で胸部から上腹部にかけても黄色く美しかった。キマユツメナガセキレイということだったが、一般的にツメナガセキレイと言えばこのキマユツメナガセキレイを示すと聞いている。ここ対馬で見るツメナガセキレイは、亜種のマミジロツメナガセキレイということになるのだろう。元来スマートな鳥であるが、冬羽も上品な装いである。亜種の多いツメナガセキレイの復習にもなろうと言うものである。

 ツメナガセキレイと命名される位だから、爪が長い筈である。映像に撮ってみたいと思った。車から出てもっと詳しく確認しようとすると、一枚向こう側の刈田に群れて飛び去る。もともと定位置にいることは少なく、あちこちの刈田を群で巡っては落穂を採餌している鳥である。車は、農作業の邪魔にならぬよう佐護川の土手に場所を定めて駐車し、鳥が近づくのを待って撮ったのが上の映像である。上段の映像からは、どの趾の爪も長いのが分かるが、前3趾に比べて後趾の爪がより長く見える。

 当日の最大目標はタヒバリの名を有する他のセキレイ類である。何時までも同じ場所に止まっているわけにも行かない。車から降りて畦道を歩けば鳥に警戒されるばかりではない。カメラ・レンズを抱えた老夫婦が歩き回れば、農家の人たちは変な人が来たと思うに違いない。申し訳ないが、ゆっくりと車を流しながら刈田の周囲を回ることにした。2時間くらい経った。車で近づけそうな刈田を探しては寄って見るが、マミジロタヒバリは見かけない。

 暫し小休止、とばかりに一枚の刈田の横に車を止めた。脱穀後の稲藁が無造作に敷き詰められた田の面にジシギが立っていた。距離は6、7mである。じっとこちらを凝視して動かない。我がフィールドのタシギならば、ジェッと啼いて素早く飛び立ち、ジグサグ飛行をしながらはるか彼方まで飛び去るのであるが、その気配はない。おまけに水気のない稲藁の絨毯で採餌していたようだ。少なくともタシギではなかろうと思った。ハリオシギかチュウジシギのどちらかではと思っが、とにかく撮っておいて種の確定は映像を後で見てからにした。

チュウジシギ

 上の映像であるが、後日先達にも確認して頂き、チュウジシギであろうとの結論に達している。ハリオシギとの鑑別に若干課題が残るそうだが、この辺りの区別は先達の如きベテランバーダーに任せる以外にない。私自身は、ジシギの鑑別をその顔つきや背羽、尾翼などで行うには知識も経験も不十分である。タシギの嘴が他のジシギより長いことがよく鑑別点に挙げられるが、並んでくれればともかく、単独でいるハリオシギやチュウジシギの映像をじっと見つめていると、どれも嘴はタシギ並みに長く見えてしまう。私の場合は、むしろ、顔かたちや羽で鑑別するよりも、見られる時期、警戒心強さの違い、驚いて飛び立つ時の飛翔、餌を獲る場所の違いなどでおよその見当をつけた方が種別判断の確実性が高くなると思っている。けれども、それも絶対ではない。ま、いずれ一瞥して判る時がくるだろうとのんびり構えていることにしている。

 再び刈田巡りを開始して、佐護川の土手に来た時である。車の窓にスコープを取り付けたバーダーの車に出逢った。挨拶して、ここでは今何が見られるのかと教えを乞うと、下島のSさんから紹介のあった方ですかと逆に質問されてしまった。びっくりしたが、前日Sさんが内山峠で佐護の鳥見情報を電話で聞かれた相手の方だった。今の佐護ではマミジロタヒバリくらいで、今年はまだいろいろと入っていないんですよとの説明があった。この日、塩田に来てスコープで撮られたというマミジロタヒバリの綺麗な映像を見せて頂いた。私も、なんとしても見て撮りたいものだと気持ちを新たにしたのである。バーダーは塩田付近をざっと見終わると、椋梨方面へと場所を移された。うーん、ベテランというのは鳥見が素早いと感心する以外にない。

 昼近くになっても、目指す鳥は見つからない。昼食を摂る場所を探したが適当な場所がなく、前夜Sさん宅に家内共々お伺いした折、佐護湾には韓国が見える見晴台があると教えて頂いていたので、そこで昼食を摂ることにした。しかし、韓国の街並みを双眼鏡で見るには、大気が澄んでいなければならないとのことである。

 佐護漁港に入る手前で佐護川を渡り、道なりに行くと公園がある。公園の手前にある電線、その近くの手入れされた松林にツバメが群れていた。かなりの大群である。車を止めて見ると、家内が赤っぽいツバメで、普通のツバメと違うというのである。そう言えば、やや普通ツバメに較べて身体が大きい。もしかしたらコシアカツバメではなかろうかと思い、公園内の石畳の上に舞い降りた一群を撮った。顎から上胸部、更に腹部にかけて多数の筋状縦斑が見え、赤い腰が見えた。その名の通りのコシアカツバメだった。千葉県の外房に行くとしばしば飛翔姿を見るが、映像に止めたことはなかったツバメである。

コシアカツバメ
コシアカツバメ
ショウドウツバメ
ショウドウツバメ左上とコシアカツバメ右下

 電線に止まったコシアカツバメを見ていると、その中に違った種類のツバメがいた。褐色の翼羽と上胸部に褐色の帯状の横斑がある。ショウドウツバメだった。合わせると100羽以上にはなったと思う。ざっと見てであるが、その7割近くがコシアカツバメで残りがショウドウツバメということになる。たまたま、渡りの時期と場所が偶然に一致したからだろうか、対馬でコシアカツバメを見るのは、それほど珍しいことではないらしい。2種の比較的珍し系のツバメを同時に見ることが出来たのは幸いだった。普通のツバメは見られなかった。

 昼食も終えて、再びマミジロタヒバリを探しに塩田の水田地帯を訪れた。先ほどのバーダーは、近くを周っていればすぐ見られますよと簡単に言われていたが、とてもそれどころではない。既に3回目の巡回となった。これだけ探しても駄目だから諦めようかと家内と話し合っていた時である。助手席にいた家内が、窓の下を見て「あっ、いた」と声に出した。車で通り過ぎてしまったようだ。鳥は、後方の左側の畔端から畦道を横切って右の畔端に移り、そこから刈田の畔(くろ)に沿ってどんどんと遠去かって行く。伸びた雑草の合間を巧みに身を隠すようにして離れて行くのである。急いで車をバックさせ双眼鏡で確認すると、白い眉斑が明らかで、目も大きいやや大柄の鳥だった。マミジロタヒバリだと思った。慌てて撮ったが、前向きの姿を一度も見せることなく、こちらを振り返りながらやがて姿を消した。

マミジロタヒバリ
マミジロタヒバリ

 なにやら自信喪失に陥る映像の量産となった。先ほどのバーダーに見せてもらったのとは雲泥の差である。初見の鳥なので、その中の比較的マシな映像を先達に確認してもらったが、おそらくマミジロタヒバリであろうと半分程度のお墨付きだった。関東では滅多にお目にかかれないが、渡りの時期の舳倉島ではしばしば見かけることがあるという。
 かなりの時間を使ったマミジロタヒバリ探しとなった。こんなことは遠出の鳥見行ではごく普通のことだと思っている。残念ながらセジロタヒバリは見かけなかった。今回はアカハラダカに絞った鳥見だったので、マミジロタヒバリを見られただけでも収穫だと思っている。椋梨では、未だ刈り入れの済んでいない田の畔(くろ)にコウライキジの雌を見たが、期待した珍し系を他に見ることはなかった。

 珍鳥というのは、普段見かけない鳥の情報が耳に入り出かけて見る場合と、予期しない時や場所で偶然見る場合の二通りがある。ベテランのバーダーは、予期しない時や場所で珍し系を見ることに大きな意義を述べる方が多い。分かる気がするが、余程バードウオッチングの修練を積んでいないと、普段からの心構えとして身に備わるのは難しい。私なんぞには、まだ遠い境地のような気がしている。対馬は、珍し系の鳥を偶然見る機会に恵まれる探鳥地である。特に渡る鳥ともなれば珍し系の宝庫でもある。せっかくこの地を訪れるならば、普段から身に備えた心構えが大事だと思う。

 今回の対馬も、Sさんご夫妻に大変お世話になった。二日目の、家内共々ご招待頂いた夕べは大変楽しいひと時だった。ご夫妻のおもてなしには心から感謝している。御礼をこの場で申し上げたい。記憶に鮮やかに残った対馬鳥見紀行だった。
 見残しのヤマショウビンを見たい気持ちが抑えきれなくなったら、三度目の正直で対馬を訪れたいと思っている。

|

«  アカハラダカ 対馬秋の渡り(2) | トップページ |  台風の置き土産 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




«  アカハラダカ 対馬秋の渡り(2) | トップページ |  台風の置き土産 »