ツミ他 秋の舳倉島(1)
10月下旬、冬鳥たちの先駆けを見ようと思い、2泊3日の滞在予定で舳倉島を訪れた。
一週間前から見続けていた現地天気予報は、次第に雲行きが怪しくなっていた。出かける前日の予報では、遂に三日間とも曇り時々雨になってしまった。それも丁度中日に前線が通過するらしく、その日は雷、大雨に注意とのことである。舳倉島に向けて船が出るのかも気になった。
遠い関東で気を揉んでいても仕方あるまい、えーい、ままよとばかりに出かけることにした。旅先で大雨を経験することはあまり無かったので、自惚れて晴れ男と思ってきたが、今度ばかりはその冥利も尽きたかと観念した。
輪島一泊の翌朝、民宿を出ようとした時、朝食を隣のテーブルで摂っていた外人が私の荷物を見て、舳倉島へバードウオッチングかと問いかけてきた。そうだと答えると、昨日、自分も舳倉島に日帰りで「ムシクイ」を見に行ってきたという。これから3日間島に滞在する私の予定を聞いて、民宿があるのかと確かめてきた。宿泊可能な状況を伝えるとしきりに頷いていたので、近いうちに泊りがけの舳倉島バードウオッチングなどを考えたのではなかろうか。短時間の会話だったが、英語名ばかりでなく「ムシクイ」等の日本語鳥名も知っていたので、日本の野鳥にも詳しい御仁なのだろう。なんとなく北欧系のバーダーの印象を受けた。舳倉島には、よく外人バードウオッチャーが訪れると聞いているが、その常連さんというより新たな一人になりそうな感じである。
宿の女将に強く勧められて輪島恒例の朝市を見て周った。新鮮な海産物が多く、気持ちは惹かれた。しかし、帰り途中ならともかく、これから舳倉島に向かう身では、申し訳ないが買いたいものはない。朝市を一巡りして港に着いたが、雨脚は次第に強くなるばかりだった。それでも、船が出ると分かった時には、正直ほっとした。もし欠航の場合、雨の輪島でどうやって一日を過すか、思い悩んでいたのである。
船の乗客は、バーダーだけで私を入れて3人だった。海上はややうねりがあって船は左右、上下に揺れたが大荒れの感じではない。有難いことに、輪島港を出て七ツ島を過ぎた辺りから青空が見えてきた。晴れ男の名残りの効用かもしれない。甲板に出て海上を眺めてみたが、過去の航海で必ず見た海鳥の姿を見なかった。
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島に着いて荷物を宿に置き、雨が降りだす前に少しでもと、レンズ・カメラを担いで早速鳥見に出かけた。
歩いて行くうちに、日が射してきて蒸し暑くなり、汗が滴り落ちてきた。嫌な予感がした。昨年10月上旬、3日間過した舳倉島は、南西の風が毎日続いて暑く、北から南に渡る鳥たちの姿が少なかったのを思い出した。また同じ状況かなと思いながら、小学校グランドを経てとりあえず野鳥観察場に向かった。船で一緒だったバーダーが既にいて、観察場までの鳥情報をお互いに提供しあうことになったが、鳥影が随分少ないということで共通した。それでも、ミヤマホオジロが渡って来たばかりであることが分かった。前日までは、キマユムシクイやキマユホオジロ等が水場によく現れたそうで、輪島民宿の外人も「ムシクイ」はこの水場で見たに違いない。
しかし、その日の夕刻にかけて、水場には一羽の鳥も現れなかった。こんなこともあるのかと思った。
驚いたことに、ツミをやたらと見かけた。
北西海岸に出て松林を振り返って眺めていると、10分間に1、2回の頻度で猛烈なスピードで目の前を飛び交う小型の猛禽を見た。飛翔中に急ブレーキをかけ、遠くの松の横枝にふわりと止まるのが見えた。撮った映像を拡大すると、虹彩が黄色い。雌のツミだと思う。
鳥影が少ないので、ツミの飛翔を撮るのだと海岸道りでカメラを据えて頑張っているバーダーもいた。私も、宿の前でススキの繁みの間を縫うようにして飛び回っていたツミが遠くにある木立の横枝に止まったのを見た。撮った映像は、あたかも青いマントを着用した如きの、いかにも無骨な感じのツミだった。アイリングで囲まれた虹彩は黒く、雄のツミだと思っている。
ツミは飛行中に獲物を見つけては突然急降下したり、左右に直角に近い角度で方向転換したり、飛翔は緩急自在だった。ツバメに似た飛翔である。数日前から島に滞在していたバーダーは、ツミがいるため冬鳥たちが恐れをなし、梢や見通しの良い横枝に出てこないのだと嘆いていた。ツミを見かける回数が多いといっても、島全体にいるのは4、5羽程度なのかもしれない。けれども、その全てが空を飛び交うとなれば、島中いたるところで猛スピードで飛ぶ小型の猛禽を見る感じとなる。ハイタカも見たが、大きさが違うし飛び方も早さも違うので、まずツミと間違えることはない。
ツミは、滞在した三日間、島中を飛び回っていた。水場にも頻回に姿を見せたので、冬鳥たちが水浴びに来ることを承知なのだろう。これでは冬鳥たちを見ない筈である。ツミは、水場にバーダーがいるとすっと飛び去り、撮る余裕などは全く与えてくれない。それだけ警戒心が強いくせに、民宿の前の草叢でホオジロ類を撮っていると、私が構えた三脚の間をビュンと羽音を立て地上すれすれに通り抜けることもあった。小学校グランドの桜に群れるミヤマホオジロを10m位の近距離で撮っている時には、後方から音も無く飛んで来て、我が頭上2、30cmを猛スピードで風切音をたてて通り越し、ミヤマホオジロの群れに突っ込んで行った。私を盾にして、鳥たちに隠れるようにして近づいたに違いない。桜の木の周りは竹藪や潅木が密に生えているので、慌ててミヤマホオジロはその中に逃げこむ。ツミもお構い無しに藪のなかに突入し、あっと思う間に狭い隙間を抜けて行った。鳥を獲ったかどうかも確認出来ない速さだった。
ツミは自らの飛翔力を誇示しているのだ、と感じる。実際、その飛ぶ姿は小さいながらも力に満ちていると思う。
こんな光景に出遭うのも舳倉島だからだろう。だからと言って、乱れ飛ぶツミが今の時期に必ず見られるものでもなかろうと思う。珍しいシーンが見られたと思っている。
3日間の内、舳倉島で見た鳥たちは以下の通りで、少なかった。太字は初見の鳥。次回は、冬鳥のいくつかを載せる予定である。
ウミウ、ダイサギ、アオサギ、クロサギ、カルガモ、トビ、ツミ、ハイタカ、ハヤブサ、チョウゲンボウ、ウミネコ、キジバト、ビンズイ、タヒバリ、ムネアカタヒバリ(冬羽)、ヒヨドリ、イソヒヨドリ、ジョウビタキ、アカハラ、シロハラ、ツグミ、ウグイス、キクイタダキ、メジロ、キアオジ、ホオジロ、シロハラホオジロ、ホオアカ、コホオアカ、カシラダカ、ミヤマホオジロ、アトリ、カワラヒワ、マヒワ、イスカ、ベニマシコ、ウソ、シメ、ムクドリ、ハシブトガラス
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